八月の光

史上最も暑い七月も終わり、あと一週間もしたら立秋なんて、驚いてしまいます。たしかに、日暮れは早くなった気がします。黄昏の郷愁的な粉ジュース色の光の中では、全てが、たまらなく懐かしく見えます。

 プルーストが言ってました「真の楽園とは、失われた楽園のことだ」と。楽園に住む者は、、そこが退屈だとかなんとか思ったりするのでしょう。二度と戻れないと知ったときはじめて楽園だったと認識する。そういうものですよね。

 八月はなぜか過ぎ去ってゆくものを思わせます。光と影のコントラストが、並木道を行くように一瞬ごとに入れ替わるからでしょうか。もちろん原爆の日、終戦記念日などもありますし、旧盆の送り火も、いやましにものなつかしさを掻き立てます。死者達が、この暑い盛りに帰ってきたい気持ち、わかるなー。

「 暑くて仕事にならん」なんて言い訳しながらだらだらと日常の些事にかまけて日を暮らす。その何事もない日常ほど、あの世から見て懐かしいものはないでしょうから。

さて染付の阿古陀瓜形鉢に薬味いっぱいの素麺。そば猪口は染付の稚龍と青呉須手の、なんと表現したらよいのか、橋を渡る人物図(?)。ほとんどかくれてますけど。石橋の上を人アヒルが歩いている図柄です。

   うまうまと独り暮らしや冷索麺   山田みづえ

「うまうまと」が、なんともいいですよね。

瑠璃ガラスのお皿にタコとわかめの酢の物。蔓薔薇の四方皿にマグロとネギの炒めたの。豆皿に薬味あれこれ 。

 旱雲ヴェニスに蛸の旬がきて   おるか

 果物を入れた染付木の葉形大鉢の向うにちらっと見えてるのは祥瑞手の水指。われながら若いころは固い仕事してますね。

もう蜩が鳴き出した。濡れるように降る蜩の声も雰囲気を添えまさる。八月は郷愁の月。

  涼夜かな青花壺中に座すごとき  おるか

暑い日に、猫がよく染付の鉢の中に入って寝ていたものです。涼しいのでしょうね。

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